【片手抜】
(かたてぬき)

泳者:児玉孝喜(仮名)
平成16年11月7日第6回日本泳法競技会
於東京辰巳国際水泳場


約束事
足を左右交互に一あおりする毎に、手も左右交互に一掻きし、後方に抜き放す。足は両扇り足(左右の足を交互に出してあおる)を用いる。真・行・草の泳ぎがある。「真」は活発で力強く、「草」はゆっくり優雅で、手を抜く前に一旦腰のところで止めてもよい。「行」はこの中間である。
動作上の留意点
姿勢
・からだは正面を向き、前に伏さり気味となる。肩は水につからない
足脚
・交互左右に縦にあおる。
手腕
・目通りから水を掻きはじめ、腰脇で後に抜き放ち、腕をまげることなく、水面に平行になるように目通りに返して水に入れる。
ポイント
@からだの動揺が少ないこと。
A抜く手の調子が同じであること。
B左右の手と足の掻きがバランスよく泳げているか。

[神傳流游書]

此の業は体を前にかかり、左の手にて水を目通りより左の方へ掻きながら左の足をがめて其の足にて水を踏むに合せて其の手にて水を切り捨て目通りに抜き出す時、右の手も左の如く水を掻きて右の足を屈がめて左の如く水を踏むに合はせて右の手をも抜くなり。左右替る替る斯くの如く抜きて伸び行くなり。草の片手抜は強ひて徳なしといえども、真の片手抜は極めて急流にて浪有る方を凌ぎ渡るに至極の徳あり。

 海中にては思ひよらざる所に渦のあるものなり。其の渦を切り抜けるには此の抜手に限るべし。
十死一生の場合を免かれ出づる事なれば、いささかも形に係らず体を崩し伸び切りて如何にも強く飛ぶ如くに游ぐべし。川にても渦のあるものなり。川の渦は底に限りあれば聊かも頓着なく渦に連れて底に入る時は2・3間も脇の方へふっかりりと吹出すものなり。渦に入るまじきとして多く仕損じるものなり。




 当流の門に入りて修業するは覚悟を極むるを趣意とするなり。世に難船に逢ひて衣類を脱ぎ捨て裸になりて仕損じる類多しと間けり。決して衣類を脱ぎ捨てるものにあらず。帯を常より堅くしめ、脇差は鞘搦さやがらみをして刀も抜けぬ様にしてすのこ板3・4枚手拭等にて堅く絞り、右板子を抱かへて飛び込むべし。右脇に板子を挟み左手にて水を掻き目当ての方へ游ぎ行くべし。右衣類を脱がぬと云ふは渚につき巌石に打ちつけられて怪我するものなり。

 多くは渚にて仕損じるなり。其の内数浪に打ち当てらるる時は身体しびれ自由叶はぬ様になる由、衣類を着て居るなれば例へ浪に打たるるとも憂ひなしと先師の教へなり。

 渚の伝と云ふ事あり。総じて船に乗るには甲骨の丈夫なる扇子を持つべしとあり。高波の節等砂浜に上り難きものなる由。然しながら身体疲れざれば如何様にも仕方ありと難も、渺々びょうびょうたる沖合にて船に離るる事なれば多分疲れてあるべし。然れば例へ渚に寄りても自由ならざれば、其の時兼ねて用意これある扇子を抜き持ち砂浜へ寄るや否や扇子を砂へ突き込み砂にぴったりと添ひてあれば浪は我が体を置いて行くなり。其の後浪の寄せくる間に緩々と立ち上がるべし。

 全体飛び込むと云ふは非なり。船に居らるる事なれば覚悟程いたし何時までも船を離れぬ様にしてあるべし。大洋は知らず我が陸地より5里6里離れたる位の処なれば陸より早々助け船を漕ぎ出すべし。船に取り付きて漂ふてあるならば必ず一命を果たすの憂なし。水練を学ぶ者兼ねて覚悟ある事なれば例へ船は覆ると雖も離れぬ位の働らきはあるべし。浪穏がなるともいよいよ助け船も来ず、如何とも仕様なければ其の時飛び込むも可なり。然しながら潮の順逆を能々考へざれば容易に飛び入る事なり難し。又川等にて衣類を着たるままあやまりて落ちる事もあるものなり。急に上らむとしては仕損じる事もあるべし。如何程流さるるとも只水に浮かみたるばかりの心にて着き安すき方を見定めて緩々と上るべし。何程広き川なればとて、川等にて随身の品一品も捨てる様の事は我が恥づる事なり。焦りて上らんとすれば邪魔になるものなり。何れまで流さるるとも少しも厭はずと云ふ覚悟あれば少しも憂なし。平日此の心にてあり度き事なり。

行間から抽出されるキーワード

体前傾。左手を目通りから左方に掻きながら左足を屈め、踏むに合わせて手は水を切り捨て目通りに抜き出す。同時に左同様右手も掻き、右足屈め、踏むに合わせて右手を抜く。片手抜の「草」の位は格別の利なし「真」の位は急流・浪を凌ぐのにきわめて有効。


海では予測のつかない渦あり
 切り抜けるにはこの抜手に限る
 命に関わるから形などこだわらない
 伸びきって、強く飛ぶように游げ
川の渦は深さに限りがある
 気にせず入れば横へ浮き上がる
 巻き込まれまいとして失敗する

当流修行の目的は覚悟を極むる事
 難破の際、裸になって失敗する者が多い。衣類は脱ぎ捨てるな
 帯を堅く締める、脇差しは鞘搦、
 刀は抜けぬよう、賛の子板数枚縛って抱え飛び込む。
 右脇に挟み、左で掻いて漕ぐ。
 渚の巌石で怪我せぬよう衣類は着ておく

大抵は渚で失敗する、何回も波に打たれれば体痺れる、衣類が有れば憂いなしとは、先師の教えなり。

渚の伝:乗船に、丈夫な扇子を携行
 高波ならば砂浜に上陸困難
 疲れが無ければどうにでもなるが沖の船からでは疲れているだろう
 体の自由が利かない  かねて用意の扇子を  砂浜へ突き立て、体を浜に付ける  次の浪までの間に立ち上がる


そもそも飛び込んではならぬ
 覚悟を決め船を離れない。大洋は別として、ふつう陸から救助に来るものだ。船と漂流すれば落命することはない。
 水練の心得・覚悟あれば、転覆しても離れぬくらいは出来よう。救助も来ない、仕様がなければ、飛び込むも可だが、潮の方向を判断してからだ。
川など、着衣のまま落ちることあり
 急いで上がろうとして失敗する。
 浮いているつもりで接岸し易い所を見定め、上がる
川ごときで携帯品を失うは恥
焦って上がるから邪魔になる
何処まで流されても構わぬという覚悟あれば憂いなし。
日頃からこの心で居たいもの。


※左右交互の縦扇りを使う「行」の位と、腰を左右に切り返し、扇りを水平に近づけて水力を上げる「真」の位がある。




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